「読みきり」



「おいルカ! そこに川なんかもってきたら街が繁栄しないだろ」
「よく言うよ。カイトが変なところに山を創るからいけないんだよ」
「なんだよ、俺のせいかよ!」
「二人とも、ちゃんと創らないと卒業できないよ」
 いがみ合う男たちに、ヒスイは口を挟まずにいられなかった。

 まっさらな大地は彼らに用意された「課題」だった。期限を明後日に迫られ、ヒスイはあせっていた。これが完成しなかったら留年確定なのに。
 さっきから苛立ってばかりの炎族のカイト。わざと反発しているようにしか見えない水族のルカ。それと……。
「……やっと来た」
 天から鋼鉄の翼を広げ降り立つ、無口で何を考えているのか分からない硬質族のカーグ。なんでこの組み合わせになってしまったのだろうか。ヒスイは頭を抱えた。
「カーグ、遅いよ」
「……悪かったな」
 謝ったのか、カンに触ったのかよくわからない。カーグはいつも眉間にしわを寄せていた。
 そもそも同族同士だったらこんなことにはならなかったんだ。温厚な風族だけだったらよかったのに……。ヒスイはこんなグループに分けた担任を呪った。こんな問題児ばかりそろえて、担任は自分にどんな恨みがあるんだ。
「それじゃあカーグも来たことだし、さっと終わらせようよ」
 今まで切り立った崖のふもとでしゃがんでいたヒスイは、立ち上がりあたりを見回す。
 崖の真横に造られた山。それに付け加えるように右に左に曲がる川。まだそれだけ。
 ヒスイは大きくため息をついた。これじゃとても人は住めやしない。他のグループは着々と完成させている話を聞くと、もう組み合わせとか何とか言ってる場合ではない。
「せっかく四大種族全員いるんだから、それぞれ一番得意なものを作れば早いと思うんだけど……」
「おう、そーだな」
 まるで、今まで全くそんなことさーっぱり思いつきもしなかった、みたいなカイトの言い方はヒスイをさらに落胆させるだけだった。
「……大地創造の基礎は水と大地だから、まずはルカ。このあたり一面海にしてくれる?」
 成績優秀なヒスイに言われプライドの高いルカは、なんで風族なんかに言われなきゃいけないんだ、を一生懸命こらえ水を召喚する。
 ルカが地面に手をつき、しばらくするとまるで湧き水のように水が溢れ出した。四人は崖の上まで飛び立ち、水が大地を覆うのを待った。
「……これくらいでいいか?」
「うん、そうだね」
 崖の下は海になった。そのあとは……。
「次は大地を造らなきゃ。カーグ」
「……」
 腕を組み黙っていたカーグは、勢いよく海に飛び込む。しばらくすると地震が起きた。海が引き、代わりに大地が現れた。これで基礎は完成した。
 あとは生物が住めるような環境を創れば一応は大丈夫。
「じゃあカイト、あの辺に草原を創ってくれる」
「えー、面倒くせぇ」
 さっき無駄な山をひとつ創ったせいで、カイトはだいぶ力を消費していた。こんなんだからいつまで経っても課題は終わらないんだ。
「……いいから、早く創ってくれる?」
 低く重みのある声でヒスイは呟いた。温厚な風族はキレると最も恐ろしい種族でもあった。眼が据わっている。
「うっ……、分かったよ」
 風族の性質をよく知るカイトは、しぶしぶ残った力を使った。
 炎の翼を大きく広げ、大地の上を飛び回る。翼から舞い散る炎は大地から草原を生み出した。
「もう、……無理」
 目を回し、カイトの体は大地へと落ちていく。
「カイト!!」
 ヒスイが叫ぶのと、崖の下にいたカーグがカイトを拾うのは同時だった。カーグはカイトを抱えたまま、崖の上へ飛んだ。
「カイト、大丈夫?」
 申し訳なさそうにヒスイはカイトに近寄った。
「あぁ、へーきへーき。それより最後はお前だろ。早くやれよ」
 カーグに肩を借りたまま、カイトは右手をひらひらさせヒスイを促す。
 ヒスイは頷き、崖の上から全てを見て両手を広げる。目を閉じ強く祈る。
 一瞬で風が舞った。風は風を巻き込み、上昇する。そして雨のように大地に海に草原に降り注いだ。
 波が大地に覆いかぶさる。草原は風に揺られ、その成長を早める。教科書で見た大地創造そのものの姿がここにあった。
「……これで、人は住めるかな」
 ヒスイは大きく深呼吸をした。とりあえず、留年は免れた。
 あとは明日、生命の種を海にまけば課題は終わる。
「なー、終わったんなら食堂行こうぜ。俺腹減ったよ」
 カイトはそう言うと一目散に空へ飛翔した。あきれたため息をついたルカも飛び立つ。カーグもそれに続く。
 ヒスイはもう一度、世界を見回した。ここにはどんな人が住み着いて、どんな文明が発達するんだろう。そう思うとわくわくが止まらない。
「……星を創るのも大変なんだな」
 そう独り言を言って、ヒスイも飛び出した。


 のちに、彼らは四大神と崇められるようになる。でも、そんなこと今の彼らには関係ない。
 彼らにとってこれは「課題」でしかないのだから。

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